信仰、日常で揺れる少女の心 芥川賞候補「星の子」を読んでみた感想・書評
2017年(平成29年度上半期)、第157回芥川賞候補作に選出された今村夏子さんの「星の子」のレビューを書きました。
作者について
著者の今村夏子さんは1980年広島県生まれ。
2010年に「あたらしい娘」で太宰治賞を受賞。
2011年に「こちらあみ娘」で三島由紀夫賞を受賞。
2016年には「あひる」が、第155回芥川賞の候補作に。
この時の受賞作は、村田沙耶香さんの「コンビニ人間」です。
今回が2度目の芥川賞候補への選出です。
あらすじ
主人公・林ちひろは中学3年生。
出生直後から病弱だったちひろを救いたい一心で、両親は「あやしい宗教」にのめり込んでいき、その信仰は少しずつ家族を崩壊させていく。
感想
ここ日本では宗教を熱心に信仰している人は少ないですよね。
もちろん主に仏教、神道の影響下にあるし、漠然とした神の存在を信じる人も多いとは思います。
ただやはり、能動的に、日常的に宗教とかかわっている人は少数です。
そしてそういう人は否定はされないまでも、変な目で見られることは多いですよね。
特にそれが、カルト、新興宗教と呼ばれるものだとなおさらです。
そういった嫌悪感の類を持つ傾向は、オウムの事件の頃からより顕著になったとも言われますね。
信教の自由が保証されているし、世界には様々な宗教があり、考え方も人それぞれだと頭では分かっているけど、どうしても奇異な目で見てしまう。
割とタイムリーな話題だと、今年芸能界で清水富美加さんの件がありましたね。
彼女は両親が幸福の科学を信仰していて本人も信者になった、という話がありました。
この本はまさしくそういった話です。
主人公のちひろの両親は新興宗教の熱心な信者。
しかしちひろは宗教には興味がない。
むしろそんな両親をちょっと変だとも思っている。
周りからも変な目で見られ、両親の信仰によって家庭がなんだかおかしな方向へ向かっていく。
だが、両親が信仰するきっかけが自分を救うためだったというのもあり、そこに葛藤が。
両親は自分を愛してくれるし、自分も愛している。
こういう状況は現実の日本でも恐らくあるわけで、空気感や細かい描写にリアリティを感じました。
ちょっとしたことで崩れてしまいそうな微妙なバランスで家庭が成り立っています。
両親とのやり取り、学校など日常の生活、物語全体に何やら不穏な空気が覆っています。
派手なストーリーではないのですが、常に何かが起きるんじゃないかという不安感、緊張感が張り詰めています。
どこかホラーのような、でも誰にでもあり得るような話で、色々と考えさせられる事が多い作品でした。
おすすめです。