書評・直木賞候補作「会津執権の栄誉」を読んでみた感想
佐藤巖太郎さんの「会津執権の栄誉」のレビューです。
この作品は2017年上半期の直木賞候補に選出されています。
石田衣良さん曰く、「この力量は本物だ!歴史小説の明日を担う才能のデビュー作をその目で確かめてもらいたい。」
山本一力さん曰く、「綿密な取材が紡ぎ出す史実と創作の融合。「新人離れした」とは、本書のことだ。」
このように著名なお2人から絶賛されています。
作者について
この本の著者、佐藤巖太郎(がんたろう)さんについて調べてみました。
1962年生まれで福島県出身。中央大学法学部を卒業。趣味は映画鑑賞。好きな作家はジョーゼフ・キャンベル。
キャンベルは神話学者で、ジョージ・ルーカスが彼の著作を参考にして『スター・ウォーズ』を製作したそうです。
佐藤さんも彼に影響を受けているとのこと。
2011年「夢幻の扉」でオール讀物新人賞を受賞。
「啄木鳥」で講談社の第1回「決戦!小説大賞」を受賞。
今作が単行本デビュー作です。
東日本大震災がきっかけで、やりたいことをやらないと、いつどうなるか分からないと小説を書き始めたそうです。
あらすじ
四百年の長きにわたり会津を治めてきた芦名家。
しかし十八代目当主が家臣の手にかかって殺されたことから男系の嫡流が断たれ、常陸の佐竹義重の二男、義広が婿養子として芦名家を継ぐことにに決まった。
血脈の正当性なき家督相続に動揺する、芦名家譜代の家臣たち。
義広が引き連れてきた佐竹の家臣団との間に、激しい軋轢が生じる。
揺れ動く芦名家に戦を仕掛けるのが、奥州統一を企てる伊達家の新当主、伊達政宗。
身中に矛盾を抱えたまま、芦名氏は伊達氏との最終決戦、摺上原の戦いに至る。
感想
あまり有名ではない会津の芦名氏を巡る物語。
ぼくも本作を読むまでその存在は知りませんでした。
富田隆実、桑原新次郎、白川芳正、小源太、金上盛備、伊達政宗という芦名家にかかわる人物たちを連作の短編で描いていくアイデアが良いですね。
色々な人物の視点から見た芦名家、それはまるでインタビューをして証言を集めて執筆したかのように、リアルな芦名家が見えてきます。
歴史、時代小説は読みにくいイメージを持っている人も多いんじゃないでしょうか。
この作品はかなり読みやすいです。
短編1つ1つがおもしろくて、登場人物のキャラ作りもうまい。
魅力的なキャラクターがたくさん出てきます。
最後は伊達側に敗れると分かっているんですが、芦名家の人間模様を見ているといつのまにか感情移入している自分がいて、ハッピーエンドをうっすら期待してしまう始末。
そんな気持ちにさせるのも、ストーリー、人物、話運びなど、作者の力量ゆえでしょう。
戦いに重きを置くのではなく、人間ドラマに注力しているのも良いですね。
歴史は勝者によって作られると言いますが、当然ながら敗者の方にも語られるべき歴史は存在しているわけです。
両側から見比べることによって、今までとは違った歴史が見えてきます。
そう感じさせられた作品です。